個別労働紛争の解決策
労務管理において、最も大切なことは、厳しくなる規制に対応することではありません。
従業員が働く上で困っていることは無いか、常に気を配り続けることです。
どんなに立派な勤怠管理システムを導入しても、従業員の働き方に無頓着である場合は、必ず何らかのトラブルが発生します。異なった言い方をすれば、従業員からもたらされるトラブルは、従業員が発しているシグナルなのです。そういうトラブルを起こさないと、その従業員は会社に興味を持ってもらえなかった、と捉えるべきであり、会社側が多いに反省すべき点です。
とはいえ、実際にトラブルとなった場合には、損害を最小限に食い止めなければいけないことも、経営管理者の務めです。
従業員からもたらされるトラブルとは?
会社の対応に不満を募らせた従業員は、主に以下のような行動を起こします。
- 労働基準監督署に 申告する
- 労働局に 個別労働関係紛争解決の援助(あっせん)を依頼する
- 裁判所に 労働審判を申し立てる
- 裁判所に 民事訴訟を訴える
上記のうち、労働基準監督署は 労基法が守られているかのチェックは実施しますが、個別の労働紛争には介入できないので、2番以後が個別の労働紛争となります。
(労働基準監督署の指導に対しては、前項目の働き方改革で記した方法で対応できると思います)
個別労働関係紛争への対応ステップ
従業員が労働局に個別労働関係紛争の解決の援助を依頼した場合のステップは以下の通りです。
- 従業員から労働紛争解決援助の申し出があった旨の通告と労働局への来局依頼が届きます
- 来局時に持参する「代表者見解書」を作成します
- 労働局は、事実関係を調査し、必要に応じ外部の意見を聴取しながら、会社へ助言・指導する内容を決定します。
- 労働局から、会社に対し、助言・指導がなされます。
- 助言・指導の内容は申し出があった従業員にも伝えられますが、その内容に納得できない場合などは、紛争調整委員会によるあっせん制度による解決を図ります。
この際、重要な書類は、2の「代表者見解書」です。決まったフォーマットはありませんが、事実関係に関する会社の認識及び主張を明確に記しておく必要があります。
代表者見解書の項目例:
① 会社の概要(組織や売上、利益の状況など)
② 解決の援助を依頼した従業員を取り巻く状況(所属組織の状況や残業、退職勧奨、減給などに至った背景など)
③ 従業員との交渉のこれまでの経緯(提示した条件や従業員からの回答など)
④ 従業員との交渉において会社側が検討や譲歩した内容など
⑤ 参考資料(就業規則、労働契約書など)
私の経験では、労働局の担当者は、客観的な事実関係の確認をなされますので、「従業員より」であるという印象はありません。しかし、
- 会社側が、従業員のおかれた厳しい環境に対して、それを緩和するために経営者はどのような努力をしたのか、しようとしているのか?
- 特定の従業員にのみ、差別的な対応をしているのではないか?
という点を中心に、深く質問を受けました。
常日頃より、このような観点に注意して、従業員の働き方に気を配っておく必要があります。
助言・指導による納得が得られない場合は、あっせん制度、さらには労働審判となりますが、会社側の経済的負担や労務的な負担も格段に増加していくので、早期解決(よりよいのは紛争にならぬこと)が望まれます。
労働審判への対応ステップ
従業員が裁判所へ労働審判を申し立てた場合のステップは以下の通りです。
- 裁判所より、労働審判手続申立書、労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状などが届きます
- 弁護士に、会社の代理人となっていただくよう依頼します
- 答弁書を作成します。(実際には、弁護士が答弁書を作成する際に必要な資料を収集・整理します)
- 労働審判委員会による審理に出席します
- 話し合いによる調停成立となるか、労働審判として解決案の提示を受けます
この際の留意点は以下の通りです。
- 労働審判は、原則 3回までの審理で審理を終結するものですが、実際には審理が3回まで及ぶことは少なく、第1回の審理における 争点や証拠の整理、当事者への審尋が、結果に大きな影響を及ぼします。
また、このような状況ですから、五月雨式に提出資料を追加することは難しいことからも、最初に提出する答弁書が非常に重要な意味を持ちます。
- 答弁書の項目建ては弁護士の指示に従うことになりますが、概ね以下のようです。
① 申立の趣旨に対する答弁
申し立ての請求を棄却します。② 申立書に記載された事実に関する会社側の認否
従業員からの申立書に記載された事実に関する会社側の認否を明確に示します。また、従業員が示した予想される争点の認否や、その争点に関する重要な事実を記載します。③ 従業員の主張に対する反論
申立書に記載されていない事実なども提示し、こちらの主張を示します。 - 会社側としては、従業員の主張する争点において、その主張を覆すための事実、証拠を提示する必要があります。未払い残業を争う場合においては、就業規則、給与規則、勤怠管理表はもちろんですが、当該従業員の入退室記録、メール、システムへのログイン・ログアウトの記録、従業員への説明記録や受取のサイン、さらには、経費精算時に提出された証憑など、あらゆるところに、その事実、証拠がある可能性があります。
通常は、答弁書提出まで一か月程度ですので、常日頃より、このような情報が整理され、閲覧できるような状況にしておくことが、交渉の成否につながります。
- 審理への出席者や審理における発言内容は、弁護士と事前に十分に吟味します。これは、事実を隠す、ということではなく、法理に明るくない人間が「会社の利益となるように」と考えて取った行動が、結果的に逆の意図として受け取られたりする場合を防ぐためです。
労働審判は、例え交渉がうまくいった場合でも、準備には大変な時間をとられますし、従業員に与える心理的な影響もはかりしれません。「火のない所に煙は立たぬ」という不安を従業員に与えてしまいます。
特に、申し立てた従業員を、経営層が非難する場合は、その不安は更に増加します。
経営管理者は、もし、従業員から訴えられた場合は、まず、訴えられたという事実は会社にも責任があることを認識した上で、しかし、審理においては、毅然とした態度で、会社側に過失がないことを主張する必要があります。
間違っても、訴えた従業員個人を非難しないよう、留意していただきたいと思います。
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