出資による経営資源の調達が増えている
経営管理の場において、株式を扱う場合は、
① 投資される側である場合
② 投資する側である場合
の双方があります。
① 投資される側である場合、つまり、株式を発行し資本調達する場合として最も多いのは、企業のスタートアップ時でしょう。企業設立後、製品やサービスを作成するまでのシード時期、売上が立つまでのアーリーステージなどにおいて、通常は、複数回のラウンドと呼ばれる資本調達を実施していきます。その他には、他企業の買収などを実施する場合にも、必要な現金を増資によって賄う場合なども増えてきています。
一方、②の投資する場合も、①の機会が増加するに従ってその機会も増えてきています。なかでも、2018年現在の最近の傾向としては、かつては、各企業内で実施していた研究開発業務を、新興企業に出資することで、そこにある優秀な人材といった経営資源を獲得する機会が増えているように感じます。研究開発業務を外を別会社にて実施することで、機動性を高め、さらには上場時のキャピタルゲインを狙うこともできるためです。
もっとも、実際にはこのようなベンチャーへの投資は基本的に自由に売買できない譲渡制限のついた未公開株の取得ですので、仮に投資先がうまく行かなくなった場合は、売り逃げることはできません。このような流動性リスクをよく理解した上で投資をする必要があります。1980年代末期から90年頃にかけての株価が大きく上昇したバブル期においては大企業における新株発行による資金調達が流行っていましたが、2016年から2018年にかけては、差し詰め、ITベンチャーによる資本調達が同じ様相を呈しているようが気がします。
このように「投資する」と「される」では正反対なのですが、実は経営管理の仕事においての作業項目はそんなに変わりません。もちろん、作業量は大きく違います(自社で発行する場合が何倍も大変です)
例えば、投資する場合は、投資先が様々な資料を作成してくれるのですが、それは株式を高く購入してほしいという意図のもとで作成されていますので、こちらでも、その資料を検証(その検証作業をデューディリジェンスと呼びます)します。その検証作業において、投資先企業の事業計画を細かくチェックするわけです。
このような事業計画は、自社が投資される立場の場合、経営管理部ではなく、現場の事業部などが作成する場合が多いでしょう。つまり、経営管理部は、社内の様々な部署にて作成された事業計画などを社内でデューディリすることになります。この点で、投資する場合もされる場合も「よく似ている」業務、というわけです。
(もちろん、増資の場合などは投資契約案の作成ほか様々な仕事が発生しますので、全く同じというわけではありません。)
資本調達実務に必要な項目は、投資家、事業計画、資本政策
本ホームページは、経営管理の具体的な実務に関する知見にこだわっておりますので、株式発行の専門的な知識に関して言及できませんが、投資される側の場合の資本調達の簡単な流れを記します。
企業が新株発行により資金調達を行う方法としては、公募増資と第三者割当増資、株主割当増資の3種類があり、公募増資は、広く一般の投資家を対象に募集を行い、第三者割当増資は、発行会社の従業員や親会社、業務提携の相手先、取引先、金融機関等、発行会社と関係のある特定の者を対象に、株主割当増資は既存の株主を対象に実施します。
IPOなど公募増資の場合は何年もかけて準備しますが、前項で紹介した第三者割当増資による資本調達のステップは以下のようになります。
- 出資者候補を探す
- 事業計画及び資本政策を作成する
- 調達先候補にプレゼンし、出資を依頼する
出資者候補を探す
第三者割当増資は、まず、自社に出資してくれる可能性のある第三者(ベンチャーキャピタルや親会社、業務提携の相手先、取引先、金融機関等、発行会社と関係のある特定の者)を探します。
ベンチャーキャピタルなどは、業界情報やプレス発表などを常にチェックしていることから広報活動を通じて関係を構築したり、関係のある金融機関を通じてアクセスしたりすることができます。また、増資は、スタートアップ時のような夢や希望がある状況だけではなく、経営状況が悪く融資が難しいといった場合も想定されます。
いずれにせよ、出資は出資する側に大きなリスクを伴うものですから、こちらのビジネスをよく理解し、強い支援の意思を持っていただける関係を常日頃から構築しておく必要があります。
事業計画及び資本政策を作成する
出資を検討してくれる調達先候補に向けて以下のような項目を含んだ文書を作成します。
これらのうち、中核となるものは3.事業計画です。事業計画において、この事業の価値、つまり、この事業が将来どのくらいの利益を継続的にもたらすのか、また、そのためにはどの程度のヒト・モノ・カネといった経営資源を投入する必要があるのか、を明らかにします。
もし、事業価値が10億円であり、そのために必要な資金が5億円であるとすれば、投資収益率は2倍ということになります。上記の「出資者候補を探す」で見つけてきた第三者に、「投資が2倍となりますよ(なる可能性がありますよ)」とお伝えし、投資をお願いすることになります。
出資者は、その2倍という数値が本当に実現できるのか、失敗すればどの程度の損となるのか、多方面から検討することになります。その検討も、この事業計画が中心に行われます。
また、4.資本政策は、(もし過去にも出資されている事業であれば)これまでの出資の経緯、また、今回以後も資金調達の必要があればその予定も含め、本事業に関係する出資の全体像を明らかにするものです。
これにより、出資者は、自分の取り分がどの程度なのか、また、いつの時期にどの程度の事業価値となるよう計画されているのか、などを伺い知ることができるのです。
- 企業概要
会社の設立日
資本金
経営者の略歴
組織図
事業内容
主な製品やサービス
主な顧客
決算月 - 経営環境
対象とする市場(製品サービス×ターゲット顧客)
市場規模や成長性
競合他社
規制、当社の上流・下流のバリューチェーンなどの状況
当社ビジネスの成功要因 - 事業計画
事業の基本的な戦略と計画
研究・開発戦略 → 開発投資計画
販売戦略 → 受注・売上計画
製造戦略 → 生産計画
広報戦略 → 広告宣伝計画
予測財務諸表
予測損益計算書
予測貸借対照表
予測CF表 - 資本政策
今回、及び将来の資金調達計画(今後の資金調達時期や最後はIPOか、他企業への買収か)
想定している株主構成
想定している企業価値(株価)とその根拠
ストックオプションなど潜在株に関する計画
上記の内、2.の経営環境は経営戦略そのものであるため、このホームページの直接のターゲットではありませんが、経営判断時に留意するポイントに関連する内容を記しています。
3.の事業計画は、予測期間(どこまで予測するか)、予測インターバル(月、四半期、年)の違いはありますが、基本的な考え方はコストモデルと予測財務諸表の作成(1)で紹介した手法とほぼ同じです。ほぼというのは、実は、コストモデルと予測財務諸表の作成(1)では、主に予算実績管理を念頭にしていたため、予測CFを作成していませんでした。
(キャッシュフローの予実管理はあまり一般的ではありません。投資計画など別の形でキャッシュフローの管理が行われています)
そこで、次回以後において、予測CFの作成、及び、その結果を利用した資本政策の作成を記します。
関連ページ
- 「経営資源を動かす」とは?
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