コストモデルと予測財務諸表の作成(2)

コストモデルと予測財務諸表の作成(2)

コストモデルを作成します。(その2)

各ステップの具体的な方策(財務シミュレーション その1)のコストモデル(その1)では、まだ営業利益が導出されていません。これは、この企業では、毎月末の仕掛工事の金額が変更するため、そちらを考慮しないと正しく製造原価が算定できないことに起因しています。

 

このように、売上と費用のみでは財務諸表が正しく計算できない場合があります。これは売上を達成するために投入された経営資源の一部がその期末(或いは月末)において、まだ、全部消費されずに、或いは、関連する売上が未計上のためにB/Sに残っていたり、逆に、過去に投入され、しかし消費されていなかった(=B/Sに残っていた)経営資源が今期の売上のために消費された場合などです。B/Sに残っている項目としては、仕掛工事、仕掛品、製品在庫、商品在庫などが考えられます。

 

さて、今回の企業では、仕掛工事が各月末に発生しています。この仕掛工事は、もともとこれまでに発生した製造費用の一部ですから、その比率をグラフにしてみます。エクセルファイルの「仕掛工事回転率」ワークシートを見てみますと、2013年12月を除けば、0.1から0.25あたりに推移していることが分かります。

 

これは、月末にはおよそ3日から1週間分の費用が残っていることになりますので、現場の工期は3日から長い時で1週間ほどかと思われます。つまり、数値が大きくなっている月は、少し大きな(=工期の長い)プロジェクトがあったのではないか、と予測されます。なお、2013年12月にはかなり大きなプロジェクトがあったのかもしれません。

 

このあたりを現場に確認することができれば、一般的には、当月に発生した製造費用の15%を仕掛工事と仮定することが妥当と考えられます。

 

ここまでの検討をエクセルファイル「コストモデル」ワークシートのコストモデルその2として記載しています。

 

作成したコストモデルを現場の情報をもとに検証します。

 

コストモデルを作成する際に、気になったポイントを現場に確認します。この場合、経営管理側から仮説を提示することにより、忙しい現場の負担をできる限り少なくする必要があります。また、確認項目の優先順位をあらかじめ決めておくことも重要です。特に利益に与える影響が大きい項目は優先度を上げて確かめる必要があります。

 

今回の企業でも、収集したデータではわからない項目がいくつかありました。なかでも、年度末に製造要員一人当たり売上が1.5倍近くになることは、直接、利益に影響を及ぼすため、必ず明らかにしておく必要があります。
現在までに作成したコストモデルは、この年度末の売上増加をモデル化していません。継続的に今後も発生するのであれば財務シミュレーションにおいても重要ですので、コストモデルに組み込む必要があります。

 

今回の企業の年度末の増加を現場にインタビューしたところ、以下のような回答を得られました。

 

  • 「年度末の売上増加は、お客様の年度予算の未消化分による物品の購入である。販売価格100万円程度の付属品などが多い。」
  • 「物品の販売は、現在は、年度末の顧客から問い合わせがあった時に対応する程度で、通年で実施しているわけではない。」
  • 「販売する物品は他社からの仕入であるため、手間はほとんどかからないが、粗利は4割程度である。」

このインタビューから、この企業は、通常のサービスのほかに単価100万円、原材料費が売上高比60%の物品販売を実施していることがわかりました。(経理上は、商品ではなく、材料として仕入れているとします。)
なお、一人当たり売上の2月、3月の増加具合からみて、各月に一人当たり平均2台程度販売していることも分かります。

 

これらをエクセルファイル「コストモデル」ワークシートに反映してコストモデルその3を作成しました。
(物品販売のための仕入れは仕掛工事には残らないため、その計算式には物品販売の影響を受けないように留意しています。)

 

このコストモデルその3から、今回の企業は、製造要員数から物品販売材料費単価にいたる12個のドライバーで財務シミュレートできることになります。
このドライバーの数を上げれば予測精度は上がりますが、各ドライバーの値を決める困難も出てきますので、最小限の数からスタートすることがよいと考えます。

 

このコストモデルその3を用いて、将来予測のベースを作成します。
(エクセルファイルの「財務シミュレーションベース」ワークシートをご参照ください)

 

設計したToBeをもとにシナリオを作成し、財務シミュレーションを実施します。

 

「企業内の業務を改善するには(4、ToBeの設計)」で検討した結果をもとに、ToBeの財務シミュレーションを実施します。

 

まず、ToBeの検討結果をさらに具体的なシナリオに落とし、そのシナリオが勘定科目に与える影響を推定します。

 

  • 保守契約のデータベース化

    保守契約数は500本程度であるため、既に企業に導入済みのエクセル或いはアクセスなどによりデータベースを作成してもよいが、保守要員が社外から、同時に複数人アクセスする必要があることから、サイボウズ社Kintoneなどのクラウド型のデータベースを利用を前提とする。
    なお、このクラウド型サービスは、簡単なワークフロー機能も持っているため、契約更新時などの業務プロセスもその中でこなせるという利点がある。
    月間利用料1000円×社員数の経費が増加する。

  • 業務センターの設立

    500本程度の保守契約の更新、請求書の発行(契約によって年間1回から毎月毎まで様々)、資材発注(各契約先への年2回の訪問時)、さらには新規契約時の契約作成などの業務を一括して行う。3名の派遣社員の増員で対応するため、派遣社員費が増加する。

  • ワークフローアプリによる保守業務のステータス管理の実現

    (保守契約のデータベース化と同様のツールで対応可能)

  • 保守員による新規保守メニューの開発や営業などの実施

    現在は、年度末に顧客からのアプローチからの部品販売を、業務センターへの業務一部移管によって時間の空いた保守要員からのアプローチに変えることで、現在、取りこぼしているニーズを発掘することを目標とします。具体的には、業務センターの業務が落ち着く6月ごろから保守要員の部品販売数を少しづつ増加させます。

     

    また、本来の保守サービスとして客先に出向く時間も増加させられるため、(保守契約数を増やすことができれば)一人当たりの売上を増加させることも可能となります。
    保守契約数は現在、新規増加と解約が拮抗していますが、保守サービスとしては新規増加よりも、解約数を減少させることが肝要です。顧客における当社製品の稼働率を高められるよう予防保全などのサービスを充実させるなど、その実現には更に深い議論が必要となるかと思われます。
    その効果をみるために、財務シミュレーションでは、一人当たり売上の増加を織り込んで行くことにします。

  • 在庫管理システムの導入

    在庫管理システムは最低でも数百万円程度の支出となるようですので、資本的支出となり、P/L上は減価償却費の増加となります。
    しかし、今回シミュレーションの範囲とする向こう一年での実現は難しいことから、今回のシミュレーションには反映しないこととします。

 

基本シナリオのほか、ダウンサイド、アップサイドを作成します。

財務シミュレーションにおいては、基本シナリオだけでなく、現実に起こりうる最も悲観的なケースとしてのダウンサイド、その逆に目標としてのアップサイドを作成し、達成できる利益の幅を把握します。

 

今回の企業では、以下のように各シナリオを作成しました。

項目

基本シナリオ

ダウンサイド

アップサイド

システム費用(月額、一人)

1000円

1000円

1000円

増加派遣社員数

3名

3名

3名

部品販売数 6月から徐々に増加 年度末を除き無し 6月から増加
保守員の稼働率 1月から5%増 現行と変化なし 9月から5%、1月から10%増

 

財務シミュレーションの結果、営業利益率は、

 

  • 基本シナリオ     27.0%
  • ダウンサイド       25.1%
  • アップサイド        28.6%    

となりました。

 

 

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